公開日: 2024/08/09
【2024年問題】運賃の値上げ交渉のポイント|適正な値上げ率とは
2024年問題により経営が悪化し、運賃の値上げを検討している運送会社は少なくありません。
2024年問題とは、主な背景として、働き方改革関連法案や改善基準告示により、ドライバーの働き方が制限されたことによって起こる様々な問題のことです。
ドライバーの労働時間短縮により輸送力が下がり、多くの運送会社で売上や利益が低下しています。さらに、労働環境の整備や人員確保にもコストがかかりますし、原油高も大きな負担になっているでしょう。
このような状況では、運賃の値上げを検討せざるを得ませんが、「取引先との契約に影響を及ぼすのでは」といった懸念から、安易に実施できないのが現状です。
この記事では、「どれくらいの値上げであれば取引先の納得を得られるのか」といった疑問に対して、交渉時の注意点やコツを解説します。
運賃の値上げをする際の注意点と交渉のポイント
直近の運賃交渉の実態
運賃の値上げはどれくらいが適正か
運賃の値上げを検討しているなら、国土交通省が発表している「標準的な運賃」を基準にしましょう。
標準的な運賃とは、トラックドライバーの労働環境改善や人材不足の解消を図り、安定した輸送力を確保するために示された金額です。法令を厳守しつつ、国民生活と経済を支えるための参考にもなります。
令和6年6月からは、標準的な運賃は8%引き上げられており、この範囲の値上げであれば取引先の理解も得やすいでしょう。
標準的な運賃は交渉の際の材料としても活用できます。例えば、兵庫トラック協会などが運賃交渉について事業者にヒアリングを行ったところ、標準的な運賃を用いることで交渉が成功したというケースもあります。
新しい仕事の依頼があった場合は、「標準的な運賃」が武器になっていて非常に有り難い。交渉では、「標準的な運賃」をベースに交渉ができており、これまでよりも高い水準で収受できている。
標準的な運賃は以下のように全国の運輸局ごとに距離や車種、走行距離を考慮した運賃表が提示されています。
運賃の値上げをする際の注意点と交渉のポイント
運送会社が健全な経営を続けるためには、運賃交渉を避けられない場面もあるでしょう。運賃を値上げする際には、人手不足や運送コストの増加などを背景に、取引先に対してその必要性を説得することが求められます。
ここでは運賃の値上げを取引先に交渉する際の注意点やポイントを紹介します。
「運賃」と「料金」を区別する
運送業務に対する「運賃」と、その他の作業に対する「料金」は明確に区別しましょう。例えば、荷役作業などの付帯業務は、運賃とは別に設定します。
また、荷主の都合によって荷物の準備が間に合わず、荷待ちの時間が長引く可能性も想定して「車両留置料」を設定することも方法です。
すでに設定している場合は、長い荷待ち時間が頻繁にあることを証拠として記録に残すことも方法です。荷待ち時間を削減してもらうための呼びかけや車両留置料の引き上げ交渉も有利に進められます。
突発的な事態が起きた際の対応を決めておく
突発的な事態とは、運送会社や荷主のいずれかが一方的に負担することが不合理と判断されるケースを指します。具体的には、以下のような場合が考えられます。
- 燃料費高騰による輸送コストの増加
- 荷主の都合により、有料道路を使わざるを得なくなった際の有料道路利用料金
こうした事態が発生した際に、運賃や料金の値上げが難しくならないよう、事前に対応策を講じておくことが重要です。例えば、燃料費の高騰に対する対策として、以下のような燃料サーチャージ制度の導入が考えられます。
引用:燃料サーチャージへのご理解をお願いいたします | 全日本トラック協会
客観的な根拠を提示する
値上げの正当性を理解してもらうためには、具体的なデータや事実に基づいた説明が不可欠です。例えば、次のような情報提供が有効です。
■運送コストの変化
燃料費の高騰、人件費の上昇、車両の維持費や保険料の増加など、運送業務にかかるコストがどのように変化しているかを具体的な数値で示す。
■市場動向
他社の運賃動向を示し、値上げが物流業界全体の流れに沿ったものであることを説明する。
■2024年問題解決に向けた取り組みであること
課題解決のためのコスト増加を具体的に説明し、必要な措置であることを伝える。
(例)人材不足に伴う業務効率化への取り組みとして、自動化技術やツールの導入が必要
(例)法令を遵守した勤怠ができるよう、トラック予約受付システム・勤怠管理システムが必要
■値上げに伴って提供できるサービス
値上げによって提供できる具体的な効果を示す。
(例)配送の迅速化、荷主の業務効率化)
「運送コストの変化」を取引先に説明する際は、国土交通省や全日本トラック協会などが公開している、信憑性のあるデータを使用することが重要です。下記は客観的なデータとして使える資料の一部となります。どのような情報の提供が重要なのかも併せて確認しておきましょう。
<燃料費高騰の資料>
石油製品価格調査|各種統計情報(石油・LPガス関連)|資源エネルギー庁
<人件費を上昇する必要性を示す資料>
①有効求人倍率から見るドライバーの人材不足:
②ドライバーとの給与の差を比較するために必要な全産業の給与(令和4年度の資料)
賃金構造基本統計調査 令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業大分類 1 学歴、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額 (産業計・産業別)
③自動車運転に従事している者の給与(令和4年度の資料)
賃金構造基本統計調査 令和4年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
▼該当箇所
乗用自動車運転者(タクシー運転者を除く)
営業用大型貨物自動車運転者
営業用貨物自動車運転者(大型車を除く)
自家用貨物自動車運転者
その他の自動車運転従事者
<全日本トラック協会による、トラックドライバーの現状のまとめ:2ページ>
まずは口頭で説明する
値上げ交渉を行う際は、まず口頭で取引先に状況や理由を直接伝えると効果的です。口頭であれば、相手の疑問や懸念に即座に対応できるため、2024年問題への理解が浅い取引先であっても、合意を得やすくなります。
さらに、口頭での説明を通じて相手に状況や背景を理解してもらった後、文書による補足を行うことで、その後の交渉もスムーズに進められます。
合意を得たら必ず書面化する
口頭で説明して値上げの合意を得たら、その内容を必ず書面に記載しましょう。口約束だけでは、いざという場面で相手に言い負かされてしまうこともあります。
その際は以下の項目を参考に内容をまとめます。
荷主・元請運送事業者(受託者・連絡先)
委託日・受託日
運送日時、場所
運送品の概要、車種・台数
運賃・燃料サーチャージ
付帯業務内容
有料道路利用料金、付帯業務料金、車両留置料(荷待ち時間に対する料金)
支払い方法・期日
出典:トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック|国土交通省
また、万が一の契約トラブル発生時のために、確定に携わる「担当者」「日時」「場所」「方法(電話・メール・対面など)」の4つの項目を記録し、取引先と共有しましょう。
運賃の値上げ交渉術については、国土交通省のハンドブックも参考になりますので、こちらもご活用ください。
参考:トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック
直近の運賃交渉の実態
ここでは国土交通省が全日本トラック協会の会員を対象に行った「標準的な運賃に係る実態調査」の結果を参考に、運賃交渉の実態を紹介します。
調査期間は令和5年2月7日から3月31日までで、「年960時間の上限規制」と「改善基準告示」が改正される2024年4月の約1年前に行われたため、2024年問題として注目される期間の調査となっています。
2024年問題とは何かをわかりやすく解説!物流業界への影響と解決策
改善基準告示の改正によりトラックドライバーの労働時間はどう変わる?
運賃交渉を実施したのは69%
国土交通省が全日本トラック協会の会員を対象に行った「標準的な運賃に係る実態調査」によると、荷主に対して運賃交渉を行ったのは、運送会社全体の69%でした。
このうち、交渉を実施しなかった31%の運送会社は、契約打ち切りや荷主の経営状況などを理由にあげています。なお、交渉を行った69%の運送会社のうち、交渉に成功した割合は63%です。
下記の表は、運賃交渉を行った69%の運送会社がどのような運賃を提示したかをまとめたものです。
標準的な運賃を提示した |
21%(939の事業者) |
標準的な運賃を考慮して自社運賃を提示した |
27%(1,199の事業者) |
値上げ額や値上げ率のデータを提示した |
20%(894の事業者) |
※n=4,401
交渉が成功したのは63%
運賃の値上げ交渉を行った企業のうち、交渉に成功した割合は63%でした。残りの37%の運送会社は以下のような結果となっています。
収受できなかった |
10%(315の事業者) |
交渉自体に応じてもらえなかった |
5%(154の事業者) |
交渉中 |
8%(229の事業者) |
その他 |
14%(426の事業者) |
※n=3,032
ただし、交渉が成功したとはいえ、希望額を収受できた割合は63%のうち30%で、残りの33%は一部収受に留まっています。この調査は2024年問題が注目されているなかで実施されましたが、それでも運賃交渉の難しさが伺えます。
画像引用|標準的な運賃に係る実態調査結果の概要(令和4年度)|国土交通省
運賃の値上げ以外の対策も重要
2024年問題への対策は、運賃値上げ以外にもさまざまな方法があります。まず優先的に行いたいのが、業務の効率化です。デジタル技術の導入により、ルート最適化や車両管理の効率を向上させることで、コスト削減が期待できます。
また、手間や時間のかかる運転日報も、クラウドシステムを導入すれば自動作成が可能です。荷主や荷受け企業の協力を得て、運行スケジュールの見直しやパレットの導入も効果的です。
さらに、労働環境を整えることも有効な対策です。ドライバーや倉庫作業者が働きやすい環境を整えることで、離職率の低下や新たな人材の獲得につながります。具体的には、待遇改善や柔軟な勤務形態の導入、福利厚生の充実などがあげられます。
TUMIXの運送業専用クラウドシステムを使えば、ドライバーのスマートフォンに運行指示を連携し、画面タッチで運転日報を自動作成できます。業務効率を大幅に向上させ、コスト削減にもつながるため、興味のある方はぜひご検討ください。
\運送業専用クラウドシステム/
まとめ
2024年問題により、運賃の値上げが避けられない企業は少なくないでしょう。値上げを行う際は、取引先との関係性を維持するために適切な交渉が求められます。
また、運賃の値上げだけでなく、業務効率化や労働環境の改善といったさまざまな対策を講じることも重要です。
2024年問題により運賃の値上がりが予測される中、TUMIXの運送業専用クラウドシステム「TUMIXコンプラ」を活用することで、労務管理の効率化とコンプライアンスの強化が可能です。
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