公開日: 2024/08/30
トラックドライバーの労働時間はどれくらい?実態や削減策も紹介
トラックドライバーの労働環境、とくに労働時間の長さは、運送業界が抱える深刻な課題です。
そこで国は「働き方改革関連法案」や「改善基準告示」などの施策により、労働環境の改善を図っています。運送会社は、これらの施策による変更点、とりわけ「労働時間の上限」について理解したうえで、対策することが重要です。
この記事では、トラックドライバーの労働時間の実態や上限規制、そして労働時間削減に向けた取り組みについて詳しく解説します。
トラックドライバーの職場環境の現状
トラックドライバーの労働時間短縮に向けた取り組み
トラックドライバー 労働時間の上限
トラックドライバーの労働時間は、働き方改革関連法の改正と改善基準告示の見直しによってルールが変わりました。規則が設けられている主な項目は下記のとおりです。
- 総拘束時間
- 最大拘束時間
- 1日の最大運転時間
- 連続運転時間
- 時間外労働の上限
- 1日の休息期間
- 隔日勤務の特例
それぞれ、どのように上限が決められているのか見ていきましょう。
総拘束時間
トラックドライバーの総拘束時間は、原則として1年間で3,300時間を超えてはいけません。例外として労使協定がある場合は、3,400時間まで延長が可能です。
また、1ヶ月の最大拘束時間は、原則として284時間までですが、1年の拘束時間を超えない範囲であれば、年6回まで最大310時間まで延長できます。ただし、その場合は、284時間を超える月が3ヶ月以上連続してはいけません。
時間外労働時間や休日労働についても制限があり、月100時間未満になるよう努める必要があります。
最大拘束時間
トラックドライバーの1日の拘束時間は、原則13時間までとなっています。ただし、状況に応じて最大15時間まで延長が可能です。さらに以下の条件をすべて満たす場合は、16時間までの延長が認められています。
- 週に2回まで
- 1週間の運行がすべて450km以上の長距離貨物運送
- 家に帰らない宿泊を伴う運行
1日の最大運転時間
1日の最大運転時間は、2日間の平均で1日あたり9時間までとなっています。そのうえで、2週間の平均が1週間あたり44時間を超えないように努めなければなりません。
具体的な運用方法としては、1日あたり4.5時間程度を目安に調整することが推奨されています。
連続運転時間
1回の運転時間は原則4時間を超えてはいけません。ただし、高速道路でサービスエリアなどがない道が続く場合は、4時間30分までの延長が可能です。
4時間を超えて運転する場合は、合計30分以上の休憩をとる必要があります。この休憩時間は分割することもできますが、10分未満の休憩を3回以上続けて取得してはいけません。
時間外労働の上限
法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)に加えて認められる時間外労働の上限は、年間960時間までと定められています。この上限は特別条項付き36協定を締結する場合に適用されます。なお、休日労働の時間はこの960時間の上限には含まれません。
注意すべき点は、あくまでも1年単位の上限であり、月ごとの上限ではないことです。ただし、運送会社はこの上限を遵守しつつも、ドライバーに無理のない人員配置と運行計画を立てることが求められます。
1日の休息期間
1日の休息期間は、勤務終了後から継続11時間を基本とし、最低でも継続9時間は取るようにしなければなりません。ただし、継続9時間の休息期間を取ることが困難な場合は、一定期間(1ヶ月程度)を限度に勤務中または勤務終了後に分けての分割も可能です。
その際の条件は以下のとおりとなります。
- 分割は全勤務回数の2分1を限度
- 2分割や3分割は可能だが、1日1回あたり継続3時間以上
- 1日の休息期間が2分割では合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間
- 3分割される日は連続しないよう努める
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隔日勤務の特例
通常、勤務が2暦日にわたる場合は、原則として21時間を超えてはいけません。しかし、以下のケースにすべて当てはまる場合は、特例として2週間に3回を限度に2暦日間の拘束時間を24時間まで延長できます。
- 事業場内仮眠施設等で4時間以上の仮眠を取る場合
- 2週の総拘束時間が126時間(21時間×6)を超えない場合
- 勤務終了後に継続20時間以上の休息期間を取る場合
トラックドライバーの労働時間の現状
厚生労働省の調査によると、2023年におけるトラックドライバーの平均時間外労働時間は1ヶ月あたり37.5時間という結果となりました。これは、全産業の平均12時間よりも約25.5時間も長く、トラックドライバーの労働環境の厳しさを如実に表しているといえます。
トラックドライバーの長時間労働の背景には、荷待ち時間の長期化や人手不足など、いくつかの要因があげられます。この状況を改善するためには、荷主企業や行政を含めた関係者全員が協力して取り組みを続けていくことが重要です。
トラックドライバーの法定労働時間を超過するとどうなる
トラックドライバーの法定労働時間超過は、単なる法令違反にとどまらず、様々な問題を引き起こす可能性があります。また、ドライバー個人の健康や安全はもちろんのこと、企業の経営にも大きな影響を与えるリスクも考えられます。
以下で、法定労働時間を超過した場合に起こりうる問題について詳しく見ていきましょう。
ドライバーの健康へ悪影響を及ぼし事故リスクが上がる
長距離運転が長引けば、ドライバーの健康に深刻な影響を与え、疲労の蓄積による事故のリスクも高まります。事故が起これば、ドライバー本人が大きな被害を受けることはもちろん、自社も大きな損害を負うことになるでしょう。
具体的には1ヶ月100時間を超える労働が続くと、慢性的な疲労や睡眠不足、ストレスの蓄積などにより、心身の健康が著しく損なわれる可能性があります。
法定労働時間を遵守することは、ドライバーの健康と安全、そして社会全体の安全を守るためにも不可欠です。
罰則を科される
トラックドライバーの法定労働時間超過が年960時間の時間外労働の上限を超えた場合、運送会社に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。
一方、改善基準告示は法律ではないため、直接的な罰則はありません。しかし、この告示に違反した場合は、労働基準監督署からの指導などを受ける可能性があります。こうした罰則は、企業のイメージダウンにつながります。
人が定着せず労働力不足に陥る
長時間労働を苦に従業員が退職してしまうと、ドライバーの数がさらに減少し、労働力不足の深刻化につながります。加えて、長時間労働により重大な事故などが起これば、企業イメージが悪化し、新たな人材確保が困難になる可能性も考えられます。
人材不足の状態が続けば、輸送の遅延や品質低下を引き起こし、荷主からの信頼の失墜につながりかねません。
このように、法定労働時間の超過は、短期的には業務をこなせているように見えても、長期的には企業の持続可能性を大きく損なうリスクが高くなります。
トラックドライバーの労働時間削減に向けた取り組み
トラックドライバーの労働時間削減は、業界全体で解決に向けて取り組むべき課題です。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 輸送方法の見直し
- ムダな時間・作業の削減
- 配車や輸送計画・勤怠システムのデジタル化
それぞれ見ていきましょう。
輸送方法の見直し
トラックドライバーの労働時間削減には、従来の輸送方法を根本から見直すことも方法です。新しい輸送方法の導入は、ドライバーの負担軽減だけでなく、輸送効率の向上にもつながる可能性があります。
ここでは、新たな輸送方法として注目される共同配送、中継輸送、モーダルシフトについて解説します。
共同配送
共同配送とは、複数の荷主や企業が協力して商品を一括して配送する輸送方法です。複数の荷物をまとめて配送することで効率的なルート設計が可能となり、ドライバーの労働時間を短縮できます。
また、運行回数も減るため、環境配慮やコスト削減につながります。
一方、複数の荷物を載せるため、荷物の管理が複雑になり、場合によっては新たに管理システムを整備しなければなりません。配送ルートや時間の変更、荷物の追加といった融通が利きづらくなる点もデメリットです。
中継輸送
中継輸送とは、長距離輸送を複数のドライバーで分担する輸送方法です。一人のドライバーにかかる負担が分散され、長時間連続して運転する必要がなくなります。また、ドライバーの交代により、適切な休息時間を確保し易いこともメリットです。
ただし、中継輸送は荷物の積み替えや車両の乗り換えを行うため、ルートによっては営業所のような中継地点が必要です。場合によっては他社のトラックを運転する場面も発生するため、事故の処理など事前に細かなルールを決めておく必要もあります。
モーダルシフト
画像引用:物流:モーダルシフトとは – 国土交通省
モーダルシフトとは、トラック輸送から鉄道や船舶などの大量輸送手段に切り替えて目的地まで運ぶ輸送方法です。一度に大量の貨物を輸送できるため、トラックドライバーの運転時間の削減に効果的です。また、CO2排出量の削減にもつながり、企業の環境対策にも貢献します。
一方で、直接トラックで運ぶよりも時間がかかる場合があるほか、設備投資や運賃の面で、輸送コストが高くなる可能性もあります。また、配送スケジュールを鉄道や船舶のダイヤに合わせる必要があり、急な変更に対応しづらい点も考慮すべきポイントです。
ムダな時間・作業の削減
トラックドライバーの労働時間削減には、日々の業務の中に潜むムダな時間や作業を見直すことが重要です。とくに問題となっているのが、荷待ち時間と付帯作業です。
これらの問題は、ドライバーの長時間労働の主要な原因となっており、早急な対策が求められています。ここでは荷待ち時間と付帯作業について、それぞれの問題点と改善策について紹介します。
荷待ち時間
荷主や倉庫事業者の都合により、荷物の積み下ろしのために待機する荷待ち時間は、トラックドライバーの長時間労働の一因として問題になっています。荷待ち時間が常態化しているのであれば、荷積み・荷卸しの時間指定や荷役作業の効率化の提案など、荷主へ改善を申し出る必要があります。
ただし、荷主と運送会社の間には取引関係があるため、運送会社側からの改善要請が荷主に受け入れられにくいのが現状です。幾度か改善を申し出ても改善されない場合は、以下のような相談窓口の活用も検討してみてください。
付帯作業
付帯作業も、トラックドライバーの労働時間を不必要に延長させる要因の一つです。本来なら倉庫事業者側が行うべき荷役作業をドライバーが担っているケースも多く見られ、場合によってはピッキングや棚入れ、品出しまで行うよう指示されていることもあります。
この状況を改善するためには、倉庫事業者と運送会社の双方で話し合いを行い、役割分担を明確にすることが重要です。
配車や輸送計画・勤怠システムのデジタル化
配車や輸送計画、勤怠管理システムのデジタル化は、業務効率の向上と労働時間の削減に貢献します。
勤怠管理
勤怠管理のデジタル化によってリアルタイムで労働時間を把握すれば、法定労働時間の超過を未然に防ぎ、労働基準法違反のリスクを軽減できます。
また、適切な休憩時間を確保し、過度な長時間労働を防止することで、ドライバーの疲労や事故のリスクの軽減にも役立ちます。さらに、自動集計機能により給与計算や労務管理の時間も削減できます。
TUMIXコンプラは、トラック運送業に特化した勤怠管理システムです。リアルタイムでの労働時間把握やアラート機能による労働時間超過の防止など、運送業の特性に合わせた機能を搭載しています。改善基準告示に準拠した労働時間管理にお悩みの方は、お気軽にTUMIXまでご相談ください。
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配車・輸送計画
配車・輸送計画のデジタル化により、最適なルート設計や効率的な配車が実現すれば、ドライバーの労働時間削減が期待できます。過去のデータを分析することで、より効率的な配車や輸送計画を立てることも可能です。また、手作業での配車計画に比べて人為的ミスが減り、より正確な計画立案が行えるようになります。
TUMIXの配車計画システムは、クラウド型のツールなので、リアルタイムで最新の手配状況を共有できます。誰でも同じように操作できるので、情報共有のムラも出にくく扱いやすいツールです。
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労働時間削減の取り組み事例
多くの企業ではトラックドライバーの労働時間削減に向けて様々な取り組みを行っています。ここでは、厚生労働省の「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」より、具体的な取り組み事例を紹介します。
いずれも、ドライバーの意識改革と荷待ち時間の削減が主な取り組みとなっています。詳しく見ていきましょう。
>>トラック運転者の改善事例| 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
事例①ドライバーとの相互理解・荷主の協力で問題解決へ
とある運送会社では、ドライバーの労働時間管理に課題を感じていました。顧客の都合で早朝に出勤しなければならず、結果として拘束時間が長くなってしまったり、ドライバー自身の判断によって規定よりも早く出勤してしまったりすることがあったようです。
この問題を解決するために、まずドライバーに労働時間管理の重要性を丁寧に説明し、法令遵守の意識を高めました。次に荷主企業に対して荷待ち時間の短縮やスケジュール調整といった協力も仰いでいます。
これらの取り組みの結果、ドライバーの労働時間に対する意識が向上し、自主的な時間管理が行われるようになりました。荷主の協力により荷待ち時間も無くなり、問題解決につながりました。
事例②業務の可視化で長時間労働の原因を特定へ
この運送会社では、ドライバーの長時間労働が原因で交通事故が多発していました。
そこで業務の可視化を行い、長時間労働の原因を突き止めることから改善を図りました。業務の可視化にあたり、導入したのがドライブレコーダーとデジタルタコグラフ(デジタコ)が一体となった機器です。この機器により、車両速度や走行時間・距離などが自動的に記録されるため、そのデータを基に分析を行いました。
分析の結果、荷待ち時間と荷下し時間の長さが原因であることが判明しました。問題解決には荷主の協力が必要であることから、運行記録情報などのデータを見せて協力を要請したところ、積極的な協力を得ることができたようです。
事例③ITの活用で運行時間を見える化へ
「荷物を早く届けたい」という気持ちから、十分な休息・休憩を取れないケースが多くありました。また、ドライバー自身も気付かないうちに長時間労働となってしまうこともあったようです。
そこで独自システムを開発し、改善基準告示の遵守を図りました。出勤時には休息期間と休日取得情報、退勤時には次回出勤可能時刻を表示しました。また、運行中も休憩までの時間や退勤までの時間などをリアルタイムで確認できるようにし、時間管理情報を荷主にも提供するようにしています。
これにより、ドライバーの時間管理意識が定着し、適切な休憩の取得が可能となりました。さらに、荷待ち時間がリアルタイムで確認できるようになったことで、荷主と改善策の話し合いが進み、良好な関係の構築にもつながっています。
まとめ
トラックドライバーの労働時間削減は、物流業界全体で取り組むべき重要な課題です。この記事では、労働時間の上限規制や現状、そして労働時間削減に向けた様々な取り組みについて解説しました。
労働時間削減のためには、輸送方法の見直しやシステムのデジタル化など、様々な対策が求められます。
トラックドライバーの労働時間管理でお悩みなら、ツールの導入で解決できる場合があります。TUMIXコンプラなら、改善基準告示に準拠した労働時間管理が可能です。
また、TUMIX配車計画では、配車計画や運転日報の作成が簡単にできます。
労働時間管理の厳格化、業務の効率化によってドライバ―の労働時間の削減に取り組みましょう。