公開日: 2024/10/22
点呼とは?概要・重要性・運行管理者が押さえるべきポイント
点呼は、ドライバーの健康状態やトラックの状況を確認し、安全な運行を確保するための重要な業務です。しかし、その実施方法や重要性について、十分に理解されていないケースもあるでしょう。
本記事では、点呼の概要や重要性、そして運行管理者が押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
・点呼の概要(タイミング・実施する人や場所)と重要性
・点呼を実施する際のポイント
・点呼に関する違反の罰則と処分内容
点呼とは
運行管理者がドライバーに対して行う点呼は、運行の安全を確保するために「貨物自動車運送事業輸送安全規則」によって義務付けられた業務です。具体的には、以下のような報告・確認・指示・記録を行います。
- ドライバーからの報告を求める(日常点検の実施状況など)
- ドライバーへ確認する(体調や睡眠状況など)
- ドライバーへ指示する(運行経路や運行時間など)
- 点呼内容を記録する(点呼執行者やドライバーの氏名など)
なお、点呼の目的は以下のような事態を防止することです。
-
酒気帯び運転などの悪質違反の発生
- 健康起因による事故の発生
- 車両故障による事故の発生
- ドライバーとのコミュニケーション不足による違反・事故の発生
ドライバーが何らかのトラブルや悩みを抱えていても、運行管理者へ連絡・相談できずに一人で抱え込んでいると、違反や事故の原因になりかねません。
実際、点呼項目が多く運行管理者とドライバーでコミュニケーションが十分に取れていると、事故の発生率が低下するという調査結果(※)も出ています。
※出典元:点呼の実施はトラック輸送の生命線です
適切な点呼の実施方法
安全かつ効率的に運行管理をするために、正しい点呼の方法を理解しておくことが大切です。適切な点呼を実施する際に大切なポイントは、以下のとおりです。
- 点呼を実施するタイミング
- 点呼を実施する人
- 点呼を実施する場所
それぞれ見ていきましょう。
点呼を実施するタイミング
点呼を実施する主なタイミングは、原則以下の2つです。
- 業務前:ドライバーが乗務前の日常点検をしたあとの出発前
- 乗務後:ドライバーが運行終了後、所定位置に車両を停めたあと
トラックの場合は、業務前・後の点呼がいずれも対面でできなかったときは、電話などで中間点呼を行う必要があります。
点呼を実施する人
トラックドライバーへの点呼は、原則として運行管理者が行います。運行管理者は、安全運行に関する専門的な知識を持ち、適切な判断ができる立場にあるためです。
補助者が点呼を実施することも可能ですが、少なくともひと月の3分の1以上は運行管理者が実施しなければなりません。
万が一、以下のようなことがある場合には、運行管理者資格者証の返納を求められる可能性があるため、しっかり覚えておきましょう。
- 1ヶ月の間に運行管理者の点呼回数が3分の1未満である
- 点呼簿が存在せず、3分の1以上の点呼を運行管理者が行っているかどうかを確認できない
点呼を実施する場所
点呼にはいくつかの形式があり、それぞれ実施場所やタイミングなどが異なります。
- 対面点呼
- 電話点呼
- 乗務後自動点呼
- IT点呼
- 遠隔点呼
点呼の方法ごとに、実施場所や実施されるシーンについて詳しく見ていきましょう。
対面点呼
対面点呼は、運行管理者とドライバーが直接顔を合わせて行う点呼です。営業所または車庫の定められた位置で行います。
点呼は対面が原則であり、対面でない場合も「対面での点呼と同じ効果を持つもの(※)」と、あくまでも対面が基準となっています。これは、ドライバーの酒気帯びの有無や健康状態を視覚的に確認することが、事故防止のために重要だからです。
※引用:点呼の実施方法について | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association
電話点呼
電話点呼は、業務の開始または終了する場所が営業所以外で、対面で点呼をできない「やむを得ない場合」のみ認められています。
具体的には以下のようなケースです。
- 営業所から出発し遠隔地で宿泊するときの乗務後点呼
- 遠隔地から出発し営業所に戻るときの乗務後点呼
- 2泊3日以上の運行において、遠隔地から出発し、別の目的地へ移動する際の乗務前・乗務後点呼および中間点呼
乗務後自動点呼
乗務後自動点呼は、AIやICTを活用して乗務後の点呼を無人で行う新しい形式の点呼です。この方式を実施するには、以下3つの要件を満たしたうえで、国土交通省へ申請を行い認定を受ける必要があります。
- 機器要件
- 施設・環境要件
- 運用上の遵守事項
乗務後自動点呼の詳細な要件や申請方法については、国土交通省のウェブサイトをご参照ください。
IT点呼
IT点呼は、IT機器を使って乗務前・乗務後関係なく点呼を実施する方法です。ただし、実施する際には特定の条件を満たす必要があります。
この方式を実施できるのは、優良認定された旅客自動車運送事業者の営業所やGマーク認定の営業所のみです。また、優良認定とGマーク認定で実施可能な範囲が異なります。
優良認定 | Gマーク認定 |
|
|
IT点呼については、以下の記事でも詳しく説明しているので、参考にしてください。
>>IT点呼とは|導入の背景や対象、メリットなど詳しく解説
遠隔点呼
遠隔点呼は、IT点呼と同様にIT機器を使用して点呼を行う方法です。
IT点呼と異なるのは、優良認定やGマーク認定を受けていない営業所でも以下3つの要件を満たしていれば導入できる点です。
-
使用するシステム・機器の要件
- 実施する施設・環境の要件
- 運用上の遵守事項
また、遠隔点呼にはIT点呼のような点呼の連続可能時間の制限がなく、24時間実施可能です。
以下の記事では、遠隔点呼について、さらに詳しく解説しています。
【事例】不適切な点呼による事故
点呼が不適切に行われると、命に関わる事故につながりかねません。ここでは、不適切な点呼が原因で発生した事故事例を2つ紹介します。
事例①高速道路での追突事故
運転手の不注意により、高速道路で大規模な追突事故が発生した事例がありました。
高速道路を走行中のトラックが、前方の渋滞に気付かず、停車していた大型トラックに追突した事故です。その衝撃で、追突された大型トラックは前の乗用車に追突し、さらに当該トラックを走っていた後続の乗用車も当該トラックに追突するという、計4台が絡む大規模な事故となりました。
事故の調査結果から、当該トラックは事故直前に減速していなかったことが判明し、わき見運転が原因だと考えられています。
この事故は、日頃から点呼を通して「十分な車間距離を保つこと」を徹底して伝えたり、渋滞ポイントを共有したりすることで、未然に防げたかもしれません。
出典元:「点呼は安全運行の要|国土交通省」を基にまとめています。
事例②飲酒運転による物損事故
トラック運転手が飲酒運転によって事故を起こした事例もあります。
当該ドライバーは、その日の運行途中の休憩地点である高速道路のサービスエリアで飲酒をし、運行を再開したあとに事故を起こしました。
調査の結果、ドライバーの運転する車内にはクーラーボックスが設置されており、中には缶チューハイなどの酒類が入っていたことが判明しました。このことから、常態的な飲酒も疑われます。
この事故は、点呼を通して車内の作業道具やゴミが散乱していないかなどを定期的にチェックするほか、徹底した教育指導により防げた可能性があります。
出典元:「点呼は安全運行の要|国土交通省」を基にまとめています。
点呼を実施する際のポイント
事故や違反を未然に防ぐために、点呼において意識すべきポイントがいくつかあります。
国土交通省がまとめた「生きた点呼をするために」を参考に、点呼のポイントを詳しく見ていきましょう。
悪質違反を防ぐために
悪質違反を防ぐためには、客観的な事実に基づいたチェックが極めて重要です。
過去に違反を起こしたドライバーの事例では、事業所の社長が「お酒を飲まないと思っていた」「違反を犯すようなドライバーではないと思っていた」と語っていたことがあります。
これは、ドライバーに対する主観的なイメージでチェックを怠っていた可能性を示唆しています。酒気帯び運転や危険ドラッグの使用といった悪質違反を防ぐには、個人的な印象や思い込みではなく、具体的な事実に基づいたチェックを行いましょう。
チェックポイント | 理由(なぜチェックするのか) |
健康診断の結果 | 肝臓の数値から普段の飲酒状況を把握できるため |
睡眠状況 | 寝付きの悪い場合、飲酒に頼る可能性があるため |
悩み事 | 悩み事が理由で酒やクスリに頼る可能性があるため |
車内の状況 | 酒類やクスリ類のゴミが落ちていないか、お酒を持っていないかを確認できるため |
これらのチェックを通じて、少しでも違和感を感じた場合は、躊躇せずに追求して確認することが大切です。
健康起因の事故を防ぐために
ドライバーの過労死や、体調不良による事故を防ぐために、疲労や疾病、睡眠の状態をしっかり確認しましょう。
睡眠時間や体温、血圧、勤務時間などの平均値を算出し、平均から離れた数字が出たときはドライバーに異変が起きているサインとして注意を払う必要があります。
また、ドライバーに何らかの疾病がある場合は、服薬状況を確認したり、薬を持ったのかのチェックをしたりすることも大切です。
車両故障を起因とした事故を防ぐために
車両故障による事故を防ぐため、点呼時に日常点検の実施状況をしっかりと確認しましょう。
また、車検証の有効期間についても、ドライバーと運行管理者のダブルチェックを行うことで、期限切れによる違反を防ぐことができます。さらに、洗車の際に不具合に気付くケースもあるため、運行管理者は定期的な洗車の呼びかけも行うとよいでしょう。
同種の事故を防ぐために
万が一事故が発生したり、事故につながるおそれのある事象を発見した際には、同じような事態が繰り返されることを防ぐために、情報を共有しておくことが大切です。乗務後点呼などで運行中に発生したトラブルなどを収集し、業務前点呼で共有するようにしましょう。
また、他社の事故事例も集めて、対策と合わせて共有することで、より幅広い観点から事故防止の意識を高めることができます。ただし、あくまでも継続することが大切なため、無理のない範囲で行いましょう。
ドライバーとのコミュニケーションを確保するために
点呼時の何気ない普段の会話から、体調や悩み事、不満などを聞き出せるよう心がけましょう。また、ドライバーが気軽に相談できるような体制・環境をつくることも大切です。
ドライバーとのコミュニケーションをしっかりとることで、ドライバーの状態を把握しやすくなります。ドライバーの疲労や睡眠状態、体調を適切に把握できていれば、危険運転を防止することができるでしょう。
点呼に関する罰則
点呼は法令で義務付けられた重要な業務であるため、適切に実施されない場合には罰則が設けられています。ここでは、「点呼の実施」と「点呼の記録」に分けて、違反した場合の罰則を解説します。
実施違反
点呼の実施回数が少なかったり、不適切な方法で行っていたりした場合、国土交通省から警告や、10〜40日の車両停止の行政処分を受けます。
例えば、点呼の必要回数100回のうち、未実施が19件以下の場合は初違反で警告、再違反で10日の車両停止となります。
違反内容 | 初違反 | 再違反 |
未実施19件以下※ | 警告 | 10日の車両停止 |
未実施20件以上49件以下※ | 10日の車両停止 | 20日の車両停止 |
未実施50件以上※ | 20日の車両停止 | 40日の車両停止 |
実施した点呼の一部が不適切 | 警告 | 10日の車両停止 |
実施した点呼のすべてが不適切 | 10日の車両停止 | 20日の車両停止 |
※点呼の必要回数100回のうちの未実施件数
出典元:「貨物自動車運送事業者に対し行政処分等を行うべき違反行為及び日車数等について 別表」
記録違反
点呼の記録に関する違反した場合は、違反内容に応じて警告や10~60日の車両停止の行政処分を受けることとなります。
違反内容 | 初違反 | 再違反 |
一部記録なし | 警告 | 10日の車両停止 |
すべて記録なし | 30日の車両停止 | 60日の車両停止 |
記載事項などの不備 | 警告 | 10日の車両停止 |
記録の改ざん・不実記載 | 30日の車両停止 | 60日の車両停止 |
記録の一部が保存なし | 警告 | 10日の車両停止 |
記録のすべてが保存なし | 10日の車両停止 | 20日の車両停止 |
※点呼の必要回数100回のうちの未実施件数
出典元:「貨物自動車運送事業者に対し行政処分等を行うべき違反行為及び日車数等について 別表」
また、点呼の際は、点検のタイミングごとに定められた事項について記録し、1年間保存することが義務付けられています。
点呼の記録事項 | 業務前点呼 | 中間点呼 | 乗務後点呼 |
点呼執行者名 | 〇 | 〇 | 〇 |
ドライバーの氏名 | 〇 | 〇 | 〇 |
運転者が業務で使う事業用自動車の自動車登録番号など | 〇 | 〇 | 〇 |
点呼日時 | 〇 | 〇 | 〇 |
点呼方法 | 〇 | 〇 | 〇 |
運転者の酒気帯びの有無 | 〇 | 〇 | 〇 |
運転者の疾病や疲労、睡眠不足の状況 | 〇 | 〇 | ‐ |
日常点検の状況 | 〇 | ‐ | ‐ |
指示事項 | 〇 | 〇 | ‐ |
自動車や道路、運行の状況 | ‐ | ‐ | 〇 |
交替運転手に対する通告 | ‐ | ‐ | 〇 |
その他の必要な事項 | 〇 | 〇 | 〇 |
出典元:貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について
まとめ
点呼は形式的な業務ではなく、運送業の安全を支える重要な柱の一つです。ドライバーの安全と健康を確保し、車両の適切な管理を行うためにも、日々の点呼は正しく、目的を意識して行う必要があります。
事故防止にはコミュニケーションのしやすい対面点呼が有効ですが、点呼の効率を高めながらドライバーの適切な管理を行うには、IT点呼の導入も視野に入れると良いでしょう。
また、IT点呼と勤怠管理システムを連携することで、ドライバーの勤怠管理や日報作成の効率化も図れます。
TUMIXコンプラなら、様々な点呼システムとの連動により自動で出勤・退勤時間を転用でき、改善基準告示の遵守状況も把握できるので、勤怠管理の効率化・厳格化に役立ちます。運送会社が作ったクラウドシステムなので、その使い心地にも自信があります。お気軽にお問い合わせください。