公開日: 2023/11/17
遠隔点呼とは|導入の背景や対象、メリットなど詳しく解説
- 遠隔点呼とは何か
- 遠隔点呼を利用するための条件
- 遠隔点呼を導入するメリット
- 遠隔点呼の導入方法
- 導入にかかる費用や期間・助成金
2022年4月からICT機器を利用した「遠隔点呼」が始まりました。
これまで、トラックやバスなどの自動車運送事業における点呼業務は「対面点呼」が原則でした。遠隔点呼では要件を満たせば、遠隔地からの点呼が可能です。
遠隔地からの点呼としては、遠隔点呼の他にIT点呼があります。IT点呼は遠隔点呼が始まる前から行われていましたが、Gマーク認定を取得した営業所や、輸送に関する安全への取り組みが優良であると認定された営業所のみに限定されてきました。
一方、遠隔点呼は、条件を満たせばあらゆる営業所で実施可能です。なお、遠隔点呼が開始した現在でも、IT点呼は引き続き行うことができます。
遠隔点事とIT点呼は似ている点が多く、混同されることが少なくありません。本記事では、遠隔点呼について、概要やIT点呼との違い、実施するための要件、メリットなどについて解説していきます。
遠隔点呼とは
遠隔点呼とは、個人を判別できる機器・システムを用いて、乗務前の点呼を遠隔操作で行うことです。バス・タクシー・トラックなどの自動車運送事業者を利用対象としています。
点呼業務は、過労運転などの事故防止を目的として、国土交通省が定める法令に基づいて義務付けられています。従来は対面で行うことが原則でしたが、令和4年4月1日より遠隔点呼も可能になりました。
遠隔点呼は、2007年から行われていたIT点呼とは異なり、要件を満たせばGマーク認定を受けていない営業所でも実施可能であることが大きなポイントです。
遠隔点呼の実施が始まった背景
前述したように、点呼業務は従来、対面で行うことが原則でした。しかし例外として、一定の条件を満たして優良と認められた営業所、またはGマーク認定を取得した営業所に限って、遠隔地からの点呼が可能なIT点呼の実施が許可されていました。
IT点呼の導入により、一部の営業所では運行管理の効率化が進みましたが、その他の営業所では思うような効率化が進んでいない状況も分かってきました。
このような状況を踏まえて、国土交通省はすべての営業所で運行管理の効率化を図れるように、優良認定を取得したりGマーク認定を受けずとも利用できる遠隔点呼の導入を始めました。
遠隔点呼はICTの活用によって運行管理が効率化され、ドライバーや運行管理者の働き方改革が進むことを期待した制度といえます。
IT点呼との違い
遠隔点呼とIT点呼との大きな違いは「優良認定」を受ける必要があるかどうかと、点呼の実施可能範囲の2つです。なお、IT点呼には「優良認定」と「安全性優良事業所認定(Gマーク)」の2つの種類があります。
以下に遠隔点呼とIT点呼の、条件・要件の違いをまとめました。
条件・要件 |
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■遠隔点呼
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■IT点呼(優良認定)
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■IT点呼(安全性優良事業所認定:Gマーク)
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条件・要件を満たす難易度は、遠隔点呼が最も簡単で、Gマークが最も難しくなっています。Gマーク認定には、3テーマ38項目の厳しい評価基準をクリアしなければなりません。
とはいえ、Gマーク認定を取得するとIT点呼利用のほか、インセンティブの付与や会社の信頼性向上などの多くのメリットがあるため、遠隔点呼が始まった現在でも認定を受ける意味は大きいといえるでしょう。
続いて、遠隔点呼とIT点呼の実施可能範囲と、点呼の可能時間について見ていきましょう。
■遠隔点呼
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すべて24時間実施可能 |
■IT点呼(優良認定)
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24時間実施可能 |
■IT点呼(安全性優良事業所認定:Gマーク)
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最も簡単に要件を満たせる遠隔点呼が、実施可能範囲が最も広く、点呼の連続可能時間の縛りもありません。
優良認定を受けている事業所やGマークを取得している事業所は、遠隔点呼が始まった2023年4月以降も従来のIT点呼を引き続きおこえる点は前述のとおりです。
しかし遠隔点呼のほうが制限が少ないため、Gマークを取得して会社の信頼性向上やインセンティブを獲得したうえで遠隔点呼を利用、もしくは併用することも選択肢のひとつです。
遠隔点呼を利用するために満たすべき要件
遠隔点呼を利用するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 定められた機器・システムを使用すること
- 遠隔点呼の実施場所や施設、環境要件を満たしていること
- 運用上の厳守事項を守ること
それぞれ見ていきましょう。
要件①定められた機器・システムを使用すること
1つ目の要件は、定められた機器・システムを使用することです。
定められた機器・システムとは、以下の4項目を満たし、情報の共有・正確性・セキュリティにおいて充分な性能を有するものを指します。
- 遠隔操作に関する基本要件
- 運行管理者等の確認すべき情報
- なりすましの防止
- 点呼結果とその記録について
それぞれの項目についての詳細については下図にまとめました。
遠隔点呼に関する基本要件 |
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運行管理者等の確認すべき情報 |
以下の情報が営業所等間で共有されており、なおかつ運行管理者等がいつでも確認できる状態にすること
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なりすましの防止 | なりすましを防ぐために、事前に登録された者以外による遠隔点呼が行えないように生体認証機能を有する機器を導入すること |
点呼結果とその記録について |
(点呼の結果・故障内容の記録について)
(点呼結果について)
(機器故障内容について)
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要件②遠隔点呼の実施場所や施設、環境要件を満たしていること
2つ目の要件は、遠隔点呼の実施場所や施設、環境要件を満たしていることです。満たすべき項目は以下の3つです。
- 環境照度の確保
- 監視カメラの設置
- 通信、通話環境の確保
この3項目を満たすためには、機器の性能も一定の水準を必要とします。型が古い機器を使用すると、画像がぼやけて個人が特定できなかったり通信が度々途切れてしまうようでは十分な管理ができなくなってしまいます。
各項目の詳細は下表のとおりです。
環境照度の確保 |
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監視カメラの設置 |
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通信・通話環境の確保 |
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要件③運用上の厳守事項を守ること
3つ目の要件は、運用上の厳守事項を守ることです。
厳守事項には、以下の3項目あります。
- 運行管理者等の遵守事項
- 非常時の対応
- 情報共有について
運行管理者等の遵守事項 |
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非常時の対応 |
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情報共有について |
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遠隔点呼を導入するメリット
遠隔点呼を導入するメリットとしては、以下の5つがあります。
一つずつ解説していきます。
人件費の削減ができる
遠隔点呼を導入すると、人件費を削減することができます。
点呼業務を対面で行う場合、運行管理者または補助者がドライバーの乗務開始時間前に出勤していなければいけません。また、対面点呼を行う人員は各営業所ごとに配置する必要があるため、営業所の数が多いほど人件費が膨らんでしまいます。
一方で遠隔点呼を導入すると、営業所ごとに運行管理者を配置する必要がないため、点呼を行う人員は一つの拠点だけにいればいいことになります。
つまり、営業所が多い企業ほど、遠隔点呼による人件費の削減が可能になり、運行管理者の負担も軽減できるのです。
会社の生産性向上が見込める
遠隔点呼を導入すると会社の生産性向上に期待できます。遠隔点呼によって点呼業務に必要な時間を削減し、他の業務に時間を割り当てることができるからです。
2024年4月からは、ドライバーの時間外労働時間に年960時間の上限が課せられるため、業務効率化による労働生産性の向上が、運送業界全体の急務となっています。
労働生産性を向上するためには、限られた時間内で現在の業務量を維持または増加させる施策が必要があります。その一つとして遠隔点呼が役立つでしょう。
労働改善を行える
遠隔点呼を導入すると労働環境の改善が可能です。
対面での点呼を行う場合、運行開始が早朝や深夜であれば、点呼を行う人員もその時間に合わせて出勤しなければならなくなり、特定の社員の負担が大きくなります。
出勤するドライバーが1人の場合でもその都度出向く必要があるため、家からの通勤や営業所から車庫までの移動といった手間や無駄が多い点も課題でした。
遠隔点呼にすることで、点呼を行う人員が現地まで出向く必要がなくなり、移動の手間や時間を削減できます。無駄や無理な出勤・移動がなくなり、ライフスタイルを重視した業務遂行が実現できるでしょう。
法令に基づいた点呼を実施できる
遠隔点呼を導入すると、法令に基づいた点呼を実施できます。
点呼業務は「貨物自動車運送事業法 輸送安全規則 第七条」で定められており、違反すれば行政処分の対象となってしまいます。
遠隔点呼は機器・システムを用いて実施するため、自動的に点呼記録簿を作成できるようになります。これにより、従来の対面式のような手入力による手誤記入やチェック漏れを防ぐことができます。
また、機器・システムを利用する遠隔点呼は、すべてのドライバーに対して一定した品質で点呼を実施できるでしょう。
このように、遠隔点呼は法令に基づいた正確な点呼記録簿の作成に役立ちます。
IT点呼に比べて導入しやすく範囲が広い
遠隔点呼の導入は、IT点呼に比べて導入しやすく実施範囲が広いことがメリットです。
前述のとおり、遠隔点呼はIT点呼(優良認定・Gマーク認定)などの認定を受けなくても導入することができます。
また、IT点呼は総点呼回数のうち1/3以上は運行管理者による対面での点呼が義務付けられているため、すべての点呼業務を対面かつ運行管理補助者に任せることはできません。
遠隔点呼には、この1/3ルールがなく、すべての点呼を遠隔で実施できることも大きな特徴です。
遠隔点呼の導入手順
遠隔点呼の導入手順は以下のとおりです。
1.要件を満たした遠隔点呼が実施できるように体制を整える
2.点呼実施予定日の10日前(原則)に以下の申請書類の提出を行う
3.遠隔点呼を実施 |
上記で紹介した要件は、ほとんどが遠隔点呼で使用する機器についての決まりや、遠隔点呼を実施する際に関することのため、導入前に準備することはあまりありません。
とは言え、遠隔点呼を実施してから体制を整えることは現実的ではないため、さまざまな項目について取り決めや周知を事前行い、要件を満たした遠隔点呼を実施できるような体制作りが必要となります。
ちなみに、遠隔点呼の実施に係る届出書の提出は、実施する営業所を管轄する運輸支局に提出します。営業所が複数の都道府県にある場合は、すべての地域の運輸局へ提出しなければなりません。
遠隔点呼の導入費用と期間
遠隔点呼を導入するために必要な費用と期間を下記の表にまとめました。とくにハードウェアやソフトウェアは、メーカーや購入先によって費用に違いあります。
導入までの期間についても幅がありますので、じっくりと検討する必要があるでしょう。
1営業所間の導入費用(例:A営業所~B営業所)
■導入費用・・・100万円程度
ハードウェア (パソコン、カメラ、アルコールチェッカー など) |
60~100万円程度 |
ソフトウェア (管理システム、指導料) |
40万円程度 |
■導入期間・・・5ヵ月程度
準備・導入 | 3~4ヵ月 |
稼働 | 1~3ヵ月 |
遠隔点呼の導入時に利用できる助成制度
全日本トラック協会は、遠隔点呼の導入時に利用できる助成制度を実施しています。
この助成制度は協会に加盟している事業者に対し、遠隔点呼などで使用する機器の購入費用の一部を支援するものです。
なお、Gマーク認定事業者は補助額の上限がより大きくなります。
対象 | 各都道府県トラック会員の会員事業者(中小事業者) |
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補助対象 | 国土交通省の認定を受け令和4年4月1日以降に契約または利用開始した自動点呼機器 |
補助額 | 上限10万円(Gマーク認定事業者は上限20万円) |
遠隔点呼の基礎知識まとめ
遠隔点呼について、概要やIT点呼との違い、要件、メリットなどを解説しました。
点呼業務はドライバーと事業者の安全を守るために必要ですが、対面では負担が大きく、離れた場所からおこなえるIT点呼も導入のハードルが高いものでした。遠隔点呼であれば、要件さえ満たせばどの事業者でも利用できます。
遠隔点呼と合わせて利用できる運送業専用勤怠管理ツールとして、株式会社TUMIXが提供している「TUMIXコンプラ」をご紹介します。
TUMIXコンプラは運送会社が作った運送会社のための専用勤怠管理ツールです。
誰でも簡単・正確に操作でき全ドライバーの労務状況を一目で確認・共有する機能も備えています。コスト削減や監査への対応力向上にも貢献できるため、運送会社の経営をサポートするツールとなるでしょう。
ぜひ一度検討されてはいかがでしょうか。
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