公開日: 2024/10/01
運送業の36協定とは?労働時間の上限について解説
運送業界では、輸送力を担保するためにドライバーの長時間労働が常態化しているケースも珍しくありません。法定労働時間を超えた勤務が発生する場合、避けて通れないのが36協定(サブロク協定)の遵守です。
36協定を締結すれば、法定労働時間の上限を超えて働いてもらうことも可能ですが、36協定の限度を超えてしまうと罰則が科される可能性があります。また、ドライバーを含む一部の業種は、適用される労働時間の上限が通常とは異なる点も理解しておきましょう。
本記事では、運送業に関わる36協定の概要と、ドライバーに適用される労働時間の上限、36協定の届け出方法などを解説します。
・36協定以外で定められているドライバーの労働時間上限
・運送業が36協定の締結時に守るべきこと
運送業における36(サブロク)協定とは
労働基準法において、労働時間は原則1日8時間、週40時間以内と定められています。この上限を超えて従業員に働いてもらうには、36協定の締結が必要です。
36協定とは、労働基準法第36条に基づく労使協定の通称で、「サブロク協定」と呼ばれます。
通常は職種や雇用形態に関わらず適用されますが、ドライバーを含む一部の業種では労働時間の上限が異なります。36協定の上限を超えて労働をさせてしまった場合、法律違反として罰則の対象となりうるため注意しましょう。
また、運送業を支えるドライバーの健康と安全を守るためにも、雇用側が協定の内容を正しく理解しておくことが重要です。ここでは、ドライバーに適用される36協定の詳細、36協定以外の労働時間規制、そしてドライバー以外の従業員に適用される規制について解説します。
ドライバーに適用される36協定
ドライバーの時間外労働の上限は、特別な事情がない限り、1か月45時間・1年360時間と定められています。よって、運送業の繁忙期など、残業時間が発生しうる特別な事情がある際には、特別条項付きの36協定を締結しなければなりません。
特別条項付きの36協定を締結した場合、労働時間の上限は年間960時間までとなります。
36協定だけでないドライバーの労働時間の上限
ドライバーの労働時間を管理するにあたっては、36協定に基づく労働時間の上限を守るだけでなく、改善基準告示も遵守する必要があります。改善基準告示とは、ドライバーの拘束時間や休憩時間などを規定した「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」のことです。
この告示は、ドライバーの長時間労働の防止や国民の安全確保の観点から見直しが行われ、2024年4月1日に新たな規定が適用されました。ドライバーの労働時間に関する改善基準告示の内容は、以下のとおりです。
項目 |
原則と例外 |
1年の拘束時間 |
原則3,300時間以内 (例外※1:最大3,400時間) |
1か月の拘束時間 |
原則284時間以内 (例外※1:最大310時間、年6か月まで) |
1日の拘束時間 |
13時間以内を基本とし、最大15時間 (例外※2:1週に2回までの16時間以内の拘束) |
1日の休息期間 |
継続11時間付与を基本とし、継続9時間を下回らない (例外※2:1週に2回までの継続8時間の休息。休息時間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与えること) |
①1か月の拘束時間が284時間を超える月は連続3か月まで
②1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満になるよう努める
改善基準告示は法律ではなく、あくまでも告示となるため法的効力や罰則はありません。ただし、重大な違反が疑われる場合には、運輸支局の通報・指導を受ける可能性があります。
>>改善基準告示の改正によりトラックドライバーの労働時間はどう変わる?
ドライバー以外に適用される36協定
36協定の締結後、ドライバー以外の従業員に適用される時間外労働の上限は、ドライバーと同様に原則1か月45時間・1年360時間です。しかし、臨時の事情があり特別条項付きの36協定を締結する場合、それぞれ上限時間が異なります。
特別条項付きの協定で、ドライバーに適用される時間外労働の上限は年間960時間であるのに対し、ドライバー以外の労働者は年間720時間以内です。なお、臨時的な事情には次のようなケースが該当します。
<臨時的な特別な事情の例>
予算・決算業務、繁殖期、緊急の対応が必要なとき(クレーム対応、納期のひっ迫、機械トラブルの対応)など |
ただし、特別条項付きの36協定を締結したとしても、ドライバー以外の従業員は下記の上限時間を超えることはできません。
-
時間外労働は年間720時間以内(休日労働を含まない)
-
時間外労働の合計は⽉100時間未満(休⽇労働を含む)
-
2~6か月の時間外労働を平均したときに月80時間以内(休⽇労働を含む)
-
時間外労働の上限である月45時間を超えられるのは年6か月まで
運送業に携わる企業でも、事務員や運行管理者といったドライバー以外の従業員にはこれらの条件が適用されます。一方で、ドライバーには適用されません。
ドライバーとドライバー以外で時間外労働の上限にどのような違いがあるのか、表で確認してみましょう。
時間外労働の上限(原則) |
||
ドライバー |
ドライバー以外 |
|
法定労働時間 |
[1日]8時間以内 [1週]40時間以内 |
|
---|---|---|
36協定の締結 |
[1か月]45時間以内 [1年]360時間以内 |
|
特別条項付きの36協定の締結 |
[年間]960時間以内(休日労働を含まない) |
[年間]720時間以内(休日労働を含まない) [合計]⽉100時間未満(休⽇労働を含む) [2~6か月ごとの月平均]月80時間以内(休⽇労働を含む) [月45時間を超えられる上限]年6か月まで |
36協定の届け出について
法定労働時間を超えて従業員に働いてもらうには、36協定の締結および届け出が必須となります。36協定で定めた上限時間以上に働かせた場合はもちろん、36協定を締結せず、あるいは届け出を行わないまま法定労働時間を超えて働かせた場合には法律違反となります。その場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
留意したいのが、36協定の締結および届け出は、事業場の規模に関係なく必要になる点です。従業員を一人だけ雇用している小規模な運送業者であっても、届け出を怠ることは認められません。
ここからは、36協定の届出に関わるフォーマットの変更点や提出方法を解説します。
フォーマットの変更
運送業に従事するドライバーの時間外労働の規制に伴い、2024年4月から36協定のフォーマットが変更されました。変更の背景には、働き方改革関連法によって時間外労働の上限と特別条項に関する規制が追加されたことが大きく関係しています。このため、特別条項の有無に応じて協定届の種類が変わりました。
旧式からの変更点は、以下をご参照ください。
引用元:トラック運転者に係る労働時間の上限規制及び改善基準告示の改正について│厚生労働省
届出の提出方法
36協定届の提出方法は、主に以下の3通りあります。
-
労働基準監督署へ行く
- 郵送で提出する
- 電子申請で提出する
提出の流れや注意点をそれぞれ確認していきましょう。
労働基準監督署へ行く
事業所を管轄する労働基準監督署に直接出向き、窓口で36協定届を提出する方法です。届出用紙は窓口で受け取るほか、厚生労働省や労働局のホームページからダウンロードしたものを印刷し使用しても問題ありません。
提出前の特別な手続きや準備は不要ですが、記入項目が多いため、あらかじめ書類を完成させたうえで窓口に持参するとスムーズです。なお、労働基準監督署の窓口を利用できるのは平日の8:30~17:15となります。
>>主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
郵送で提出する
管轄の労働基準監督署に宛てて36協定届を郵送する方法です。以下4つの書類を同封して送りましょう。
-
36協定届の原本
- 36協定届の写し
- 返送用の切手と封筒(切手の貼付と返送先の記入が必要)
- 送付状(同封した書類と書類の数量を記入)
普通郵便で送付する場合、ポストに投函すればいつでも提出が可能です。ただし、労働基準監督署のもとへ書類が届くまでには、数日かかる場合があります。
また、36協定の締結が適用されるのは届け出をポストに投函した日ではなく、労働基準監督署で受理された日からです。受理されるまでのあいだに法定労働時間を超える時間外労働が発生してしまうと、労働基準法違反となる可能性があります。
郵送で提出する場合、書類の到着・受理までに日数がかかることを考慮し、余裕を持ったスケジュールで手続きを進めましょう。
電子申請で提出する
36協定の届出は、政府の電子申請窓口「e-Gov」を利用したオンライン申請も可能です。電子申請であれば時間や休日・祝日に関係なく利用でき、窓口に出向く必要もありません。また、封筒や切手の準備も不要です。
ただし、事前準備としてe-Govアカウントの取得、適切なブラウザ設定(ポップアップのブロック解除など)、必要なアプリケーションのインストールを済ませておきましょう。
36協定の締結において運送業が留意すべきこと
36協定を締結する際は、運送業に適用される各種法令の規定を遵守するとともに、従業員の安全を脅かすことがないよう注意を払う必要があります。留意すべき7つの指針は以下のとおりです。
1.時間外労働・休日労働は必要最小限に留められるべきであることを理解したうえで36協定を締結すること。
2.36協定で定めた上限内であっても、労働者に対する安全配慮義務を負うこと。 →労働時間が長くなるほど過労死のリスクが高まることを理解する
3.時間外労働・休日労働の業務の範囲を細分化し、明確にすること。 →例えば、ドライバー業務は「積込み・運転・荷下ろし」などに細分化して労働時間を管理できるため、「運行業務」のように一括り にして届け出を行ってはいけない
4.時間外労働の原則(1か月45時間・1年360時間)を超えて働かせる必要がある場合には、臨時的な特別の事情を具体的に説明できること。また、労働時間が極力短くなるよう努めること。 →「業務上必要なため」などの理由は認められない
5.1か月未満の雇用期間で働く労働者の場合、時間外労働の目安時間を超えないよう努めること。 →目安時間:「1週間:15時間」「2週間:27時間」「4週間:43時間」
6.休日労働の日数および時間数をできる限り少なくするよう努めること。
7.時間外労働の原則(1か月45時間・1年360時間)を超えて働かせる場合は、労働者の健康および福祉を確保すること。 →医師の面接指導、健康診断など、定められた8項目のなかから選び協定に盛り込む |
出典元:トラック運転者に係る労働時間の上限規制及び改善基準告示の改正について│厚生労働省
まとめ
運送業における36協定は、ドライバーとして働く従業員の健康と安全を守るための重要な取り決めです。ただし、ドライバーの労働時間を適切に管理するには、36協定や改善基準告示などのルールに則ることはもちろん、日々の勤怠管理も重要になります。
ドライバーの労働時間管理に課題を感じている場合、専用ツールの活用も検討してみてください。改善基準告示に対応した勤怠管理システム「TUMIXコンプラ」は、企業の法令遵守と効率的な労務管理の両面に貢献します。
36協定の締結と適切な労務管理で、運送業を支えるドライバーの労働環境を健全に保ちましょう。